デルタ法




1. 概要

デルタ法は、ある関数の確率変数の期待値や分散を近似的に求めるために使用される方法です。

特に、標本平均のような統計量の漸近的性質(大数の法則中心極限定理によるもの)を利用して、その統計量の関数の分布の漸近的性質を推定する際に役立ちます。


デルタ法の基本的な考え方は、関数のテイラー展開を使用して、確率変数の関数の分布を近似することにあります。

一般に、 g(X)の形の関数で表される確率変数に対して、 Xの周りでの gテイラー展開の第一項(線形項)のみを考慮し、高次の項は無視します。


これにより、 g(X)の期待値や分散を、 Xの期待値や分散を用いて近似的に求めることができます。



2. デルタ法による期待値と分散

 Xが平均 \mu、分散 \sigma^ 2の分布に従い、 g(X)を考えるとき、 g \muにおける一階導関数 g'(\mu)を用いて以下のように近似します。


  •  g(X)の期待値の近似

    \displaystyle{
\mathrm{E}[g(X)] \approx g(\mu)
}


  •  g(X)の分散の近似

    \displaystyle{
\mathrm{Var}[g(X)] \approx g'(\mu)^2 \sigma^2
}





3. 期待値と分散の導出

実際に期待値と分散が上記の式になるか確認してみます。


1. g(X)のテイラー展開

期待値と分散を求めるために、まず関数 g(X)に対するテイラー展開を考えます。


ここでは、 Xが平均 \mu、分散 \sigma^ 2を持つ確率変数であり、 g \muにおけるテイラー展開は以下のようになります。

\displaystyle{
\begin{align}
g(X) = g(\mu) + g'(\mu)(X - \mu) + \frac{1}{2}g''(\mu)(X - \mu)^2 + \cdots
\end{align}
}


ここで、 nが大きい場合、 Xの分布は \muの周りに集中します。したがって、 (X - \mu)^ 2やそれ以上の高次の項は \sigma^ 2に比べて無視できるほど小さくなります。


この近似により、テイラー展開の第一項と第二項のみを考慮すると、以下のように近似できます。

\displaystyle{
\begin{align}
g(X) \approx g(\mu) + g'(\mu)(X - \mu)
\end{align}
}


この式を利用して、 g(X)の期待値と分散を近似的に求めることができます。


2. 期待値の近似

期待値 \mathrm{E}[\cdot]を両辺に適用すると、次のようになります。

\displaystyle{
\mathrm{E}[g(X)] \approx g(\mu) + g'(\mu)\mathrm{E}[X - \mu]
}


ここで、 \mathrm{E}[X - \mu] = 0となるので、次のように期待値を表すことができます。

\displaystyle{
\mathrm{E}[g(X)] \approx g(\mu)
}


3. 分散の近似

分散 \mathrm{V}[\cdot]を両辺に適用すると、次のようになります。

\displaystyle{
\begin{align}
\mathrm{Var}[g(X)] &\approx \mathrm{Var}[g(\mu) + g'(\mu)(X - \mu)] \\
\end{align}
}


この式を整理していくと、次のようになり分散を表すことができます。

\displaystyle{
\begin{align}
\mathrm{Var}[g(X)] &\approx g'(\mu)^2 \mathrm{Var} [X - \mu] \\

&= g'(\mu)^2 ( \mathrm{Var}[X] - \mathrm{Var}[\mu]) \\

&= g'(\mu)^2 ( \mathrm{Var}[X] - 0) \\

&= g'(\mu)^2 \sigma^2 \\
\end{align}
}