独立に正規分布に従う確率変数を考えます。
それぞれの2乗した値を、とおきます。
これらの和をとおくとき、次のようには定義されます。
この確率変数がカイ二乗分布に従うことの証明と、実際にカイ二乗分布の確率密度関数を導出します。
1. 標準正規分布の二乗和がカイ二乗分布になることの証明
ガンマ分布のモーメント母関数を使用して、がカイ二乗分布になることを証明します。
がに従うとき、とおいての密度関数を求めることから始めます。
は標準正規分布に従うので、次の確率密度関数として表されます。
の密度関数は、変数変換により求めることができます。
のとき、でのの密度関数は以下のように導出されます。
この式の導出方法がわからない場合は、次の記事で平方変換について解説しているので、確認してみてください。
ここで、を次のように変形します。
ガンマ分布の確率密度関数は次のように表すことができます。
これらをふまえると、は, のガンマ分布の確率密度関数になることがわかります。
つまり、はガンマ分布に従うということです。
は独立でに従うので、ガンマ分布は再生性を利用して、これらの和もガンマ分布に従います。
のモーメント母関数は次のようになります。
のモーメント母関数を求めます。
求めたモーメント母関数は、自由度のカイ二乗分布のモーメント母関数となるため、確率分布とモーメント母関数の対応から、は自由度のカイ二乗分布に従うことがわかります。
カイ二乗分布はガンマ分布の特別なケースと見なすことができます。
言い換えると、自由度ののカイ二乗分布は、パラメータ, のガンマ分布となります。
2. カイ二乗分布の確率密度関数の導出
標準正規分布の二乗和がカイ二乗分布になることが証明できたので、今度は実際に標準正規分布の二乗和からカイ二乗分布の確率密度関数を導出してみたいと思います。
1. 導出の方針
2. 前提知識
確率変数の線形結合
を求める過程で、確率変数の線形結合の知識を使用して、それぞれの確率密度関数を求めます。
詳しい内容は次の記事で解説しているので、確認してみてください。
ガンマ関数とベータ関数
計算の過程でガンマ関数とベータ関数を使用します。
それぞれの式と性質を簡単に記載します。
ガンマ関数
ベータ関数
3. カイ二乗分布の導出
1. のときの確率密度関数を求める
となるため、上で証明したものを流用すると、次のようにを求めることができます。
2. のときの確率密度関数を求める
次のように確率変数を定義します。
は次のように求めることができます。
ここでとおきます。
となり、積分範囲はからとなります。
積分箇所は、のベータ関数となります。
また、ガンマ関数の性質を利用して、式を整理していきます。
以上で、を求めることができました。
3. のときの確率密度関数を求める
としたときに、はに従い、はに従います。
このように分解すると、との線形結合とみることができます。
おいて確率変数を次のように置きます。
は次のように求めることができます。
以上で、を求めることができました。
4. の時の確率密度関数を類推する
これまでに計算したをまとめると、次のようになります。
を次のように類推します。
は、ですべて共通しています。
の指数部分は、の形になっていることがわかります。
定数部分ですが、これは類推することが難しそうなので、とおきます。
以上をまとめると、は次のように表すことができます。
不明の定数部分は、確率密度関数を全範囲で積分するとになるという性質を利用して、次の式を解くことでを求めます。
ここで、を左辺に掛けて、式を整理します。
積分箇所を考えます。
これはのガンマ分布とみることができます。
全範囲で積分するととなるため、次のようにを求めることができます。
を求めることができたので、は次のように類推することができます。
5. が、となることを、数学的帰納法を使用して証明する
数学的帰納法を使用して、が成り立つと仮定し、も成り立つを示します。
としたときに、はに従い、はに従います。
このように分解ができるため、との線形結合とみることができます。
おいて確率変数を次のように置きます。
は次のように求めることができます。
ここでとおきます。
となり、積分範囲はからとなります。
積分箇所は、のベータ関数となるので、ベータ関数を利用して式を整理していきます。
これにより、のときも成り立つことが確認できました。
以上より、自由度のカイ二乗分布の確率密度関数は次のように求めることができます。