1. 尤度比検定
1. 尤度比検定統計量
を確率変数のサンプルとし、これらがある確率分布から独立に同一分布()に従っているとします。
ここではパラメータで、1次元でも多次元でも構いません。
次の仮説を考えます。
はパラメータ空間の部分集合であり、およびを満たします。
つまり、とは互いに排他的で、全体空間をカバーします。
尤度比検定統計量は、以下のように定義されます。
ここで、は尤度関数で、サンプルが与えられたときのの尤度を表します。
を全パラメータ空間における最尤推定量、をに制限した空間での推定量とすると、尤度比検定統計量は次のようにも書けます。
2. 棄却域(パラメータが1次元)
パラメータが1次元の場合、次の仮説のもとで検定を行います。
この場合、尤度比検定統計量のは、漸近的に自由度1のカイ二乗分布に従います。
これを利用して、棄却域を以下のように定義することができます。
3. 棄却域(パラメータが多次元)
を次元、を次元とした一般化されたケースでは、次の仮説の下で検定を行います。
この場合、尤度比検定統計量のは、漸近的に自由度のカイ二乗分布に従います。
これを利用して、棄却域を以下のように定義することができます。
4. 例題
例題を通して、尤度比検定の理解を深めたいと思います。
1. 検定統計量の導出
標準偏差は既知として、正規分布から得られたデータに対して、尤度比検定を使用して次の検定問題を考えます。
正規分布の尤度関数を求めて、計算しやすいように式を変形します。
を全パラメータ空間における最尤推定量、をに制限した空間での推定量として、尤度比検定統計量を求めます。
ここで正規分布のパラメータの最尤推定量は次のようになります。
これを用いる十尤度比検定統計量は次のように表すことができます。
今回の場合、パラメータの数は1つのみなので、尤度比検定統計量のは、漸近的に自由度1のカイ二乗分布に従います。
棄却域は次のように設定することができます。
2. 検定統計量の計算
引き続き、次のような具体例を考えてみます。
標準偏差は既知として、正規分布から下記のデータが取得されたとします。
尤度比検定を使用して次の検定問題を考えます。有意水準は5%で設定します。
尤度比検定統計量を求めます。
ここで、問題設定より、与えられたデータを計算するととなるため、次のように計算することができます。
また、問題設定より, となります。
棄却域を考えます。
有意水準は5%に設定しているので、は次ののようになります。
以上をふまえて、結論としてとなっているため、帰無仮説を棄却することはできません。
2. ワルド検定
1. ワルド検定統計量
ワルド検定で、次の仮説を考えます。
の最尤推定量をとするとき、最尤推定量の漸近有効性より、漸近分布は正規分布に従います。
ここで、をで推定したものも正規分布に従い、この統計量をワルド検定統計量は次のように表すことができます。
2. 棄却域
次の仮説のもとで検定を行います。
この場合、ワルド検定統計量は、漸近的に正規分布に従います。
これを利用して、棄却域を以下のように定義することができます。
3. 例題
例題を通して、ワルド検定の理解を深めたいと思います。
1. 検定統計量の導出
標準偏差は既知として、正規分布から得られたデータに対して、ワルド検定を使用して次の検定問題を考えます。
まず、最初に正規分布のフィッシャー情報量を求めます。
正規分布の分散は既知なので、のみ未知のパラメータとして扱います。
これを用いるワルド検定統計量は次のように表すことができます。
ワルド検定統計量は、漸近的に正規分布に従います。
棄却域は次のように設定することができます。
2. 検定統計量の計算
引き続き、次のような具体例を考えてみます。
標準偏差は既知として、正規分布から下記のデータが取得されたとします。
ワルド検定を使用して次の検定問題を考えます。有意水準は5%で設定します。
ワルド検定統計量を求めます。
ここで、問題設定より、与えられたデータを計算するととなるため、次のように計算することができます。
また、問題設定より, となります。
棄却域を考えます。
有意水準は5%に設定しているので、は次ののようになります。
以上をふまえて、結論としてとなっているため、帰無仮説を棄却することはできません。
3. スコア検定
1. スコア検定統計量
スコア検定で、次の仮説を考えます。
スコア関数を次の式で定義されます。
スコア関数の期待値と分散は、それぞれ次のようになります。
は対数を取った尤度関数となるので、確率変数の和としてみることができます。
中心極限定理から、確率変数の平均(または和)が、サンプルサイズが大きくなるにつれて正規分布に収束することになるので、のときスコア関数は正規分布に従います。
これを用いるスコア検定統計量は次のように表すことができます。
2. 棄却域
次の仮説のもとで検定を行います。
この場合、スコア検定統計量は、正規分布に従います。
これを利用して、棄却域を以下のように定義することができます。
3. 例題
例題を通して、スコア検定の理解を深めたいと思います。
1. 検定統計量の導出
標準偏差は既知として、正規分布から得られたデータに対して、スコア検定を使用して次の検定問題を考えます。
まず、最初に正規分布のスコア関数を求めます。
正規分布の分散は既知なので、のみ未知のパラメータとして扱います。
フィッシャー情報量は、ワルド検定の時に求めた通り、次のようになります。
これを用いるスコア検定統計量は次のように表すことができます。
スコア検定統計量は、正規分布に従います。
棄却域は次のように設定することができます。
2. 検定統計量の計算
引き続き、次のような具体例を考えてみます。
標準偏差は既知として、正規分布から下記のデータが取得されたとします。
スコア検定を使用して次の検定問題を考えます。有意水準は5%で設定します。
スコア検定統計量を求めます。
ここで、問題設定より、与えられたデータを計算するととなるため、次のように計算することができます。
また、問題設定より, となります。
棄却域を考えます。
有意水準は5%に設定しているので、は次ののようになります。
以上をふまえて、結論としてとなっているため、帰無仮説を棄却することはできません。